目次

1.「森の入り口」

2.「過去からの手紙」

3.「突然の雨」

4.「かみさまとの会話」

5.「雨上がり」

6.「身体と心」

7.「生きる」

8.「あとがき」

 

5.「雨上がり」

 

雨が上がった後の森は、きらきらと光の粒を反射して輝いていた。

 

雨がつくった川のほとりで時間を忘れた。

 

 

 

川の流れに足を浸すと、穏やかな水流にくすぐられて気持ちがよかった。

 

水面に木漏れ日が、ゆらゆら揺れていた。

 

 

 

川に流れて行く水泡を見ているうちに、子供の頃の記憶がよみがえってきた。

 

そうそう、笹をこんな風に編んで、舟を浮かべて遊んだ気がする。

 

私は、近くにあった葉を摘むと、記憶を頼りに小さな舟を作って川に流した。

 

 笹舟は水面に浮かんで、私の手元から離れていった。

 

自分の内側にせきとめていたものが、笹舟に乗ってすーっと流れ出て行くようだった。

 

6.「身体と心」

 

 

森の奥で「お見送り」があるから君も行ってくるといい。

 

かみさまは、そう言って私を送り出した。

 

 

森の奥では、小さな葬いが行われていた。

 

小鼠(こねずみ)の亡骸(なきがら)から、たましいが天に帰って行く。

 

光の粒が空を舞っていた。

 

風も光も、樹々も木漏れ日も、小鼠(こねずみ)を慈しむように共鳴していた。

 

いつか来る終わりがあるということの救いと、この森にやってきたことの意味を私は理解した。

 

 

「準備はできたかい?」

 

優しい声はあの時のバスタオルみたいに、私を包んだ。

 

 

私は小さく頷いて「はい」と答えた。

 

ずっと流せなかった涙が、一筋ほおを伝った。

 

 

土の上に涙が一粒こぼれると、森の樹が私を飲み込んだ。

 

樹の中を、空気や水と一緒になって流れて行く。

 

根っこから幹を伝って枝の先へ、私はすごい速度で樹の中を押し上げられていった。

 

 

まるでジェットコースターに乗っているみたいだ。

 

 

枝の先まで来た時、枝は空に向かって伸び出した。

 

止まらずに、どんどん加速して空高く伸びて行く。

 

やがて空を突き抜けて、大気圏を超えて、月が見えたところで、視界がくるんと反転した。

 

 

 

 

そこには宇宙の暗闇の中、青く輝く惑星がぽつんと浮かんでいた。

 

とても美しい星だった。

 

それを見た時、涙が湧き上がって来て私の中に溢れた。

 

 

7.「生きる」

 

目を覚ますと私は、森の入り口の草むらの中にいた。

 

どれくらいの時間、この場所で眠っていたのだろう。

 

柔らかい夢の余韻のような感覚だけが、残っていた。

 

不思議と心と足取りは軽くなっていた。

 

 

「きっと大丈夫だよ」

 

優しい声がしたような気がして、ふっと振り返ったけどそこには誰もいなかった。

 

私はまた自分の足で、前に向かって歩き出した。

 

 

 

見上げた空には、真昼の月が上っていた。

 

 

 

 

 

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