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2017-06-11

びーとと樹のおじいさん(第3話)

それから

それから何年もの月日が流れました。

その間、たくさんの生き物たちが、樹のおじいさんの元を巣立って行きました。

樹のおじいさんは、日の当たる丘で生きてきた時間に満足していました。

それでもあの日からぱたっと現れなくなった少年のことは、ずっと心の中に残っていました。

 

「あの子が巣立っていったムクドリやシマリスたちのように、元気に大人になってくれていたらいいのじゃが。」

『いつかのように、ひょっこり本を読みに来てくれるような気がしてのう。わしの体はもうぼろぼろじゃし、神さまから「この仕事を終えて空に帰ってもいいよ」と許可をもらっていたのじゃが、それだけが気になって、少しだけ長居をさせてもらっていたのじゃ。』

 

「だが、もうそろそろ時間が来たようだね。」

樹のおじいさんがそう言うと、ひと吹きの風が、幹の周りをくるりと吹き抜けました。

「話を聴いてくれてありがとう。」

 

 

 

 

「眠ってしまってたのかー。」

 

びーとは樹の根元に抱かれるように、眠っていました。

目覚めると、もう何時間か過ぎていたようでした。

「樹のおじいさん、僕眠ってしまってたみたい。お話の続きを聞かせてよ。」

びーとは、樹のおじいさんに声をかけましたが、樹のおじいさんの声はもう返って来ませんでした。

樹のおじいさんのたましいは、樹の幹をするりと抜け出して、天に昇った後でした。

 

 

びーとはゆっくり立ち上がって、樹をぐるっと一周してみました。

そこにはシマリスがかじった跡や、もう巣立ってしまったムクドリの巣の跡や、アリのかじった葉っぱや、たくさんの生き物たちが、おじいさんの命をもらって生きていた証が残っていました。

 

丘のふもとの方で、笑い声がしたので振り返ると、そこには小さな人影がありました。

 

 

小さな人影はゆっくり丘を登って、大きな樹に近づいて来ました。

それは、お父さんと、お母さんと、男の子、女の子の4人家族でした。

そして大きな樹の前まで来ると、みんなで樹の根元に腰を下ろしました。

 

「子どもの頃、この大きな樹の下でよく本を読んだんだ。」

お父さんがそう言うと、お母さんは男の子と女の子に、おにぎりを手渡しながら笑って言いました。

「小さい頃から、本ばっかり読んでいたのね」

 

 

「どこよりもこの樹の下が落ち着いたんだ。親の仕事で引っ越しが決まってしまってね。あれからこの場所に来たかったけど、ずっと来れなかったんだ」

「あの日は確か台風だったんだ。お別れが言いたくて、最後にこの場所に来たなぁ。」

「びしょ濡れで帰ったから、さんざん怒られたけどね。」

 

お母さんは水筒からコップにお茶を注いで、配り終えると言いました。

「さぁ昔話しはそれくらいにして、ご飯を食べましょう」

 

「いっただきまーす」

 

子供たちの楽しそうな笑い声を聴きながら、びーとはその場所を後にしました。

 

 

大きな樹の根元には、また新しい命が芽吹いていました。

 

(おしまい)

 

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