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2017-06-11

びーとと樹のおじいさん(第2話)

不思議な少年

やがて小さな種は根を深くはり、空いっぱいに葉を広げ、日当たりのいい丘の上で大きな樹になりました。

大きな樹の幹には、たくさんの生き物たちが暮らしはじめました。

数え切れないくらいたくさんの季節が巡って、大きな樹はやがて歳を取り、樹のおじいさんになりました。

 

 

ある晴れた日、見なれない少年が、樹のおじいさんの前にやってきました。

 

樹のおじいさんは言いました。

「この丘に、人間の子供がひとりでやってくるなんて珍しいのう。おなかでも空いているのかい?」

 

すると少年は、こう言いました。

「おなかは空いてないよ。少し休んで行ってもいいかな?」

「驚いたのう。お前さんはわしの声が聞こえるのかい?」

少年は、樹のおじいさんの言葉がわかるようでした。

ムクドリやシマリスや小さなアリたちは、樹のおじいさんの言葉を聴くことができましたが、人間に声をかけて答えが返ってきたのは、はじめてのことでした。

 

それから少年は毎日のように、樹のおじいさんを訪ねてくるようになりました。

少年は、いつもひとりでやって来て、ひとりで帰って行きます。

「本を読むのが楽しいんだ。」

そう言って、樹の根元で本を読んだり、昼寝をしたりしていくのでした。

 

少年はときどき、樹のおじいさんに本を読んで聞かせてくれました。

七つの海を旅する冒険のお話や、タイムマシーンに乗って時空を旅するお話、バイオリン弾きと王女様の恋のお話。

「人間のつくる話は、面白いのう。」

樹のおじいさんは、そう言っていつも笑いました。

 

台風の夜に

ある晩、島に大きな台風が近づいて来ました。

風が強く吹きつけ、真っ暗な空に「ゴーッ」という大きな風の音が鳴り響いていました。

動物たちは土の下や、幹に掘った巣の奥深くに隠れていました。

たくさんの枝に生い茂っていた葉っぱは、強風でばらばらと落ちてしまいました。

ふと人の気配がして樹のおじいさんが目をこらすと、丘のふもとの方から人影が近づいて来ました。

それは、あの少年でした。

「なんでここに来たんじゃ。もうすぐ暴風になるよ。早く帰りなさい。」

 

少年は言いました。

「うん、心配になっちゃってさ。大丈夫かい?」

 

「わしなら大丈夫じゃ、一刻も早く気をつけてお帰り。」

樹のおじいさんは追い返すように、そう強く言いました。

 

少年は樹の幹に手を当てて「風に飛ばされないでね。」と、心配そうに言いました。

そして大きく手を振ると、来た道を戻って帰って行きました。

 

 

それが樹のおじいさんが少年を見た、最後になりました。

▶︎続き【びーとと大きな樹(第3話)】

 

 

 

 

 

 

 


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